Story
17歳の少女サムは、父クリスと彼の旧友マットとともに、ニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける。
二人の男たちは、旅路の間、長年のわだかまりをぶつけ合いながらも、ゆるやかにじゃれ合う。年齢以上に聡明なサムは、彼らの小競り合いに半ば呆れつつも、聞き役、世話役を全面的に引き受ける。しかし、男たちの行動によってサムの“大人への信頼”が裏切られたとき、サムと父は“親子の絆が揺らぐ瞬間”を迎えることになる。



父とその友人と、17歳の少女サム、3人きりの3日間の山登りキャンプ。
几帳面で支配的な父、人生に行き詰まる友人の男、そして二人のあいだで静かに空気を読み続けるサムは“大人の不完全さ”に気づき、自分の内に芽生える違和感と向き合っていく―。
監督は、ケリー・ライカートやグレタ・ガーウィグの系譜に連なる新世代の才能、インディア・ドナルドソン。本作が長編監督デビューながら、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)にノミネートされ、サンダンス映画祭でも審査員賞候補となるなど、国際的に高く評価された。映画批評サイトRotten Tomatoesでは批評家98%という驚異的なスコアを獲得。名匠ロジャー・ドナルドソン監督の娘としても知られる。主人公のサムを演じるリリー・コリアスは、本作で映画初主演を果たし、その繊細な存在感で一躍注目の若手俳優となった。
自然光を生かした映像が、キャッツキル山地の静寂と、サムの心の揺らぎを美しく重ね合わせ、誰もが通過する、大人になることの喪失感と希望を表している。




17歳の少女サムは、父クリスと彼の旧友マットとともに、ニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける。
二人の男たちは、旅路の間、長年のわだかまりをぶつけ合いながらも、ゆるやかにじゃれ合う。年齢以上に聡明なサムは、彼らの小競り合いに半ば呆れつつも、聞き役、世話役を全面的に引き受ける。しかし、男たちの行動によってサムの“大人への信頼”が裏切られたとき、サムと父は“親子の絆が揺らぐ瞬間”を迎えることになる。




ロサンゼルス西部出身、フランス人の母とギリシャ人の父をもつ。LAのリー・ストラスバーグ・インスティテュートやニューヨークのスクールで演劇を学ぶ。高校在学中に決まった『グッドワン』で初主演を果たし、静かで深い演技が高く評価される。映画初出演は日本未公開の『Palm Trees and Power Lines』(22)。次回作はA24のホラー映画でメインキャストとして名を連ね、今後の活躍が期待される。
1962年、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス出身の俳優。1980年代後半から映画・テレビで活躍し、インディペンデント映画界で存在感を確立した。1989年の『ドラッグストア・カウボーイ』で注目を浴び、その後『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』(95)、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(16)など、話題作への出演が続く。また、舞台経験も豊富で、映画・テレビだけでなく舞台でも高い評価を得ている。独特の魅力と多彩な役柄で、インディペンデント映画から大作まで幅広く活躍し続けている。
1969年、アメリカ・ミズーリ州セントルイス出身の俳優。テレビシリーズ「プリズン・ブレイク」(05–06)の特別捜査官ヘイル役として注目を集める。人気テレビシリーズ出演をはじめ、ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイでも高く評価されている。舞台・映像を問わず、自然体でリアリティのある演技を見せる俳優として知られる。
アメリカの映画監督。父はニュージーランドの映画監督ロジャー・ドナルドソン。映画監督になる前はテキスタイル業界で働いていた。監督デビューは2018年制作の短編映画『Medusa』で、その後2019年と2021年に短編『Hannahs』と『If Found』を発表。長編デビュー作『グッドワン』は、2023年にポーランド・ヴロツワフのアメリカ映画祭で制作途中作品として発表され、ポストプロダクション支援として5万ドルの賞金を受賞した。完成版は2024年の第40回サンダンス映画祭と第77回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映され、カメラドール(新人監督賞)ノミネートを果たした。同作はその後、同年の第13回シャンゼリゼ映画祭でアメリカ独立長編映画部門のグランプリを受賞、第96回ナショナル・ボード・オブ・レビューで新人監督賞を受賞している。




息をのむほど完璧
—WBUR
驚異的な監督デビュー作
—Otros Cines
観客の心に長く残るだろう
—Next Best Picture
リリー・コリアスという才能の発見
—The Hollywood Reporter
現代映画に稀なほど繊細
—Otros Cines
敬称略、五十音順
男たちが聞かない彼女の声を、カメラが静かに聞いている。
男たちが気に留めない彼女のこころを、カメラはつぶさに見つめていて、
言葉にならぬほど小さな棘がわたしにも刺さった。
父とその友人とのキャンプの最中。
主人公の娘の感情がじわじわと変わっていく。
父と娘は確かに親子ではあるけれど、個と個だということをまざまざと感じさせる。親であって欲しい時に親でいてもらえないその瞬間は、身に覚えがある気がして胸がキュッとした。家族だからといって全てわかり合えるわけではない。こうして大人になり、家族という枠組から脱却して自分という個を確立していくんだろう。
人からの目線、誰かとの沈黙の時間、言葉を交わさずとも伝わり気づいてしまうことが散らばっている。
どんな大人よりも敏感に、静かに、周りを見ているサムの描かれ方が素晴らしかったです。
17歳のサムは生理による不調を抱えながら、父とその友人と山へ登る。
ジェンダー差に潜む我慢と傲慢ーー
この傑作の穏やかさは、それらがいかに日常的なものであるかを僕らに静かに問いかけてくる。
木々のこもれび、川のせせらぎ、鳥のさえずりの間を縫って、気づかぬうちに慎重に張られている緊張の糸。
誰もが知り得る静かな圧迫感と痛切な失望。
あそこまで冷たく響く「沈黙」を僕はあまり耳にしたことがない。すごい映画です。
大人は、大人ではない。
そう気づくとき、受けとめなければならないとき、少女は大人になるらしい。
サムにはまだまだ少女でいてほしいような気がしたけれど、成長などというものは止めようがないから。
森はやさしくない。山登りはたのしくない。
サムが「いい子」を降りたとき、石は味方になり、風はようやく声をかけてくる。
帰り道はもう、運転しなくていい。
仕方ないと諦めていたこと、当たり前だと見過ごしていたこと、大丈夫だと思い込んでいたこと。
『グッドワン』は日々の中でそうして蓋をしていた違和感を肯定し、わたしたちに反旗を翻す勇気を与えてくれる。
大人の沈黙の影で、子どもがどれほど繊細に世界を感じ取っているのかを思い知らされ、胸が締め付けられた。
必要かどうかだけに縛られず、好きなものをたくさん抱えて歩み出すサムの表情を、いつか見てみたい。
少女が無意識のうちに引き受けさせられる、男性たちの感情労働。
なにも起きなかったかのように振る舞われたとしても、取り消すことのできない何かが、彼女の内側に住み着く。
それを「通過儀礼」と呼ぶ世界に、『グッドワン』は静かに、しかし明確に抗う。